長崎家裁島原支部令和3年12月20日判決・同令和3年(家ホ)第5号認知請求事件

長崎家裁島原支部令和3年12月20日判決・同令和3年(家ホ)第5号認知請求事件

長崎家裁島原支部令和3年12月20日判決・同令和3年(家ホ)第5号認知請求事件

フィリピン人母から出生した子による日本人父に対する死後認知の訴えにつき緊急管轄が認められた事件(なお、本案について民法787条ただし書の出訴期間徒過により訴え却下)

判旨 #

国際裁判管轄についての説示 #

(1) 人事訴訟法3条の2に定める管轄原因が認められない場合であっても、個別具体的な事情を考慮し、我が国の裁判所の管轄権を否定することが正義衡平の理念に反し、不当な裁判の拒否に当たるようなときには、例外的に国際裁判管轄を認めるのが相当である。 (2) フィリピンでは、非嫡出親子関係の成立につきいわゆる事実主義が採用され、認知の制度は存在しないため、原告らは、フィリピンにおいて、認知の訴えを提起することはできないが、亡Cとの非嫡出親子関係の確認を求めることはできる(フィリピン家族法175条1項,173条1項参照)。 フィリピンの裁判所で非婚出親子関係の確認の訴えを提起する場合、非嫡出親子関係の証明は、①身分登録簿に記載された出生記録(同法172条1項1号)や、②親と主張される者が公的文告又は自筆の私的文書において非嫡出親子関係を認め、著名をしたこと(同項2号)によって行うことができるとされている(同法175条2項)。また。上記①②によって非嫡出親子関係を証明しようとする場合の出訴期間については、親と主張される者が死亡した後であっても、子と主張する者が存命中である限り提訴が認められている(同法175条2項,173条1項)。 (3) しかしながら、仮に、フィリピンの裁判所で非嫡山親子関係が存在することを確認する判決が得られたとしても、本件訴えが、我が国の裁判所において、民法787条ただし書の出訴期間の要件をかいた不適法なものであると判断される可能性があることからすると、上記判決は、民事訴訟法118条3号の「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」の要件を具備せず、効力を否定されるおそれがある。 そうすると、原告らと亡Cとの非嫡出親子関係の存否についての紛争を終局的・抜本的に解決するためには、我が国の裁判所で審理・判断をすることが適切であるといえ、我が国の裁判所の管轄権を否定することは正義衡平の理念に反し、不当な裁判の拒否に当たるというべきである。 よって、本件訴えについて国際裁判管轄を認めるのが相当である。」

民法787条ただし書の適用について #

(1)「本件訴えは、原告らが父と主張する亡Cが死亡した日から3年が経過した後に提起されたものであり、民法787条ただし書の出訴期間を経過したものである。原告らは、同規定の出訴期間の定めが憲法14条1項に違反して無効であり、本件訴えは適法であると主張するので、以下で検討する。」 (2)「以上によれば、民法787条ただし書が憲法14条1項に違反して無効であるとは認められない。原告らの訴えは、民法787条ただし書の定める出訴期間の経過後に提起された不適法なものというべきである。」

評釈 #

戸籍時報 2025年7月号 通巻869号 37頁 井上泰人 東北大学大学院法学研究科教授 自家撞着ではないかとの指摘、従前の裁判例が見ていた救済可能性ではなく応答の必要性で判断している点の指摘などが注目された。